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11.蓬灸療法
12.瀉血療法


チベット医学でいう瀉血療法とは、身体の異なった部位に、異なった形状の針と刀を用いて、血管を刺す或いは切開することにより、病原となる血液と毒気(悪い気)を除き去り、熱性疾病を治療するという療法です。他の伝統医学と比べて、チベット医学における瀉血療法はまた独特な部分を持っています。《四部医典》中では、専門の一章が設けられ、瀉血療法に用いる工具から、診断方法、部位の説明、効用等詳細な記述がなされています。



1.器具

《四部医典》では、"肉に針を刺し、排血を行うならば、その形は鳥の羽の長さで6横指(1横指は1〜2cm)、その肉の隙間、血脈の部分に刺す。先が鈍いものは背部に、鋭いものは子宮に用いて瀉血を行う、その形は、斧刀のようならば骨の上の脈口に刺し、湾刀(曲がった形状の剣)ならば腫部を割くのに用いる、8横指程の鎌型ならば舌部の腫部を切るのに用いる、刺割のようならば頭部の瘡を割くのに用いる。"とあります。その意味としては、肌や筋肉を切開し瀉血を行う場合は、針を用い、形は雀の羽のような形で、長さは約6横指、肌や筋肉を割いてその隙間の血脈に打ち込むという意味です。

鋭い先端を持つ戦闘用刀の場合は、臓器や非常に小さい穴位等の瀉血に用います。
斧型の手術刀は、骨に近い脈道部分の瀉血に用います。
剃刀のような手術器具は、腫瘍による炎症が起こっている部分を削り取るのに用います。
鎌のような形で、長さ約8横指の機器は、舌部を割くのに用います。
胸腔を切る刀は頭部の腫瘍を切除するのに用います。
臨床では、ビュク・ドォザァ(針の道具)、湾頭新月状刀、斧状刀等が常用されます。

いずれも堅固な金属材料を必要とし、巧みな技を持つ職人が何度も鍛錬を重ね、精巧なものを作る必要があります。"中空に舞う毛を切ることができる鋭さがあれば最良とする"と言われています。



2.瀉血部位
《四部医典》には72の瀉血部位が記載されています。

頸強直の場合は、陰穴に瀉血を行います。
ペーケン及びチーパ型の頭痛、飲酒による頭痛、額の刺痛、シン会のだるみ、瞼が重い等の症状がある場合は、シン会を避け、金槍脈、銀槍脈に針を刺し瀉血を行います。
心熱を持ち、激しい喉の渇きを覚える患者は、舌脈に針を刺し瀉血を行います。
心熱を持ち、咳き、呼吸困難、構音障害等は、喉の中間あたりにある頚脈に針を刺し瀉血を行います。
肺、心臓、隔膜、胸部と背部の交互の痛み、息切れは、六首穴及び露頂穴に針を刺して瀉血を行います。
肝臓、脾臓、横隔膜の拡散症や紊乱症、刺痛、熱性腫瘍等がある場合は、短角脈に針を刺し瀉血を行います。
胃及び肝臓の血液病は背脈、六会穴に針を刺し瀉血を行います。
腸道及び腹部の外傷、睾丸の腫張、痔、子宮疾患、下半身がだるい等の症状がある場合は、腸骨脈に針を刺し瀉血を行います。
腎臓病の拡散、腰部の外傷及び、両足の引き攣り、動作の不自由、下腿の痛み、股関節の痛み、内臓膿瘍、崩漏等は、脛尾穴に針を刺し瀉血を行います。
足の裏や表の腫張、黄水病等は、顔面、馬鐙脈に針を刺し瀉血を行います。

総じて、
上半身の疾病は、細頂脈、露頂脈に針を刺し瀉血処理を行います。
下半身の疾病は、踝脈、脛尾穴に針を刺し瀉血処理を行います。
身体の中部の疾病は、腑脈と短角脈に針を刺し瀉血処理を行います。
胸部疾病は、露頂脈と六首穴に針を刺し瀉血処理を行います。
乳房及び肝臓の疾患は、腑脈と短翅脈に針を刺し瀉血処理を行います。
心熱症は、腑脈、舌脈と頚脈等に針を刺し瀉血処理を行います。
肺熱の場合は、六頭脈、露頂脈、ツュマサン(穴)等に針を刺し瀉血処理を行います。
心肺疾病は、小端脈、肺総脈に針を刺し瀉血処理を行います。
熱性の肝臓病は、短角、露頂脈に針を刺し瀉血処理を行います。
熱性の脾臓病は籠頭脈と薬指背側の脈道に針を刺し瀉血処理を行います。
胃熱は六会に針を刺し瀉血処理を行います。
胆熱は、正長脈、細脈、金槍脈に針を刺し瀉血処理を行います。

腎熱は、臓尾、陽物両側に針を刺し瀉血処理を行います。
腸道の疾病は踝脈に針を刺し瀉血処理を行います。
腎臓下垂の場合は、腔尾に針を刺し瀉血処理を行います。
筋熱症は、肺肝脈に針を刺し瀉血処理を行います。
熱性骨病は、腎脈に針を刺し瀉血処理を行います。
皮膚の熱及び黄水症は、肝胆脈に針を刺し瀉血処理を行います。
激しい痛みがある場合は、短角、肺脈に針を刺し瀉血処理を行います。
食欲不振は、胆脈に針を刺し瀉血処理を行います。しかしながら、その他見て確認が取れる病状の場合は、その近くに存在する脈道に針を刺し瀉血処理を行っても構いません。
重度の熱病患者の場合は、頚端脈に針を上から下に向かって刺し瀉血処理を行います。
病状が軽い患者の場合は、細脈に針を下から上に向かって刺し瀉血処理を行います。
病状が重い場合は、また細脈から数度針を刺し瀉血処理を行っても構いません。また、頚端脈、腸骨脈に針を刺すと効果があります。

瀉血を行う部位を理解せずに針を刺すと、下半身の血液を上昇させ、体質の虚弱を招くおそれがあり、また逆に上半身の血液が下降することで、胃熱が衰弱する恐れがあります。



3.治療方法
(1)準備段階
急性と緩性で2種の状況があります。緩性とは、疾病がまだ完全に形成されていない状態のことであり、まずはそれをある程度まで形成させ、湯剤薬剤を内服し、病血と健康な血液を分離させ、更に針を刺し瀉血を行います。でなければ、瀉血を行った際に、健康な血液が流出し、逆に病血が体内に残留し、ルン性の疾病の誘発、また熱等の素を排除できない恐れがあります。急性の場合、瀉血前に湯剤薬剤等の内服の必要はなく、太陽や火に当たって暖を取り、入浴するなどして、必要な準備を行います。

(2)正式な瀉血処理方法
瀉血を行う前に結紮(血管を縛る)する必要があります。結紮部位は瀉血を行う穴位に合わせて決定します。

額上の脈、陰穴、囟門等の瀉血を行う場合は、眉の生え際に細い縄を用いて結紮を行い、その後小さな木の棒を巻いてきつく縛ります。
2ヶ所の細頂穴から瀉血を行う場合は、腋下の窪みに結紮を行います。
舌脈に瀉血を行う場合は、綸子(絹織物の総称)を竹片に巻き付けたものを舌にのせ固定します。
黄水、六首穴、露頂穴、純遒穴等に瀉血を行う場合は、喉頂上部から下へ向かって3横指(1横指は1〜2cm)のところに結紮を行います。
大脈に瀉血を行う場合は、膝の内側1横指のところに結紮を行います。
管状脈に瀉血を行う場合は、必ず木の棒を紐で硬く縛って結紮を行います。

結紮を行わないと、針が正しく刺せない、誤って針が曲がり、出血せず、皮膚及び筋肉が痺れるような状態になった場合は、脈道を拡張してから針を刺して出血させる必要があります。結紮後は脈道を手でよく揉み、針を刺す際には指で脈道を押さえて固定する。その時下に向けて軽く押さえつけるようにして、脈道の位置が簡単に動かないようにします。一般的に結紮を行った部分から3横指以下のところに針を刺し瀉血を行います。



4.血色を見る
出血した血液の色は、黄色っぽく薄い、蔵馬鳥(Crossoptilon crossoptilon(Hodgson).)の背部のような色(灰色をおびた水色)、泡状で白色を呈し、粘着質の液体が見られる場合、それは病血です。病血が放出されれば、痛みが止まり、病が除かれます。放出された血液が黒紫色で出血が少ない場合、薬湯を服用し、再度瀉血を行います。胆汁のような膿が出る場合は、身体の滋養をはかった後、再度瀉血を行います。血色は赤色でどろどろしている場合は、病血ではないので、再度の瀉血は必要ありません。ルン型疾病患者の血色は紫色で粗く、また赤っぽい泡が出ます。チーパ型疾病患者の血色は黄色で薄く、臭いがあります。ペーケン型疾病患者の血色は赤っぽく、また白みがさしており、濃く滑らかです。血の色が朱色おびた赤、イチゴのような色の場合は、健康な血液であり、瀉血を行う必要はありません。



5.放血量
疾病が駆逐され、健康な血液が出るようになったところで、速やかに瀉血を停止します。内臓の痛みや痛みを止めるために瀉血を行っている場合は、健康な血が放出されても、更に瀉血を継続します。体質虚弱者は、針を何度も刺して放血させることは控えます。特にルン型疾病患者の場合、それが病血であったとしても、針を刺して放血させてはなりません。ただし血液過多、血液機能の紊乱が引き起こす痛み、体内の血嚢腫、四肢の炎症(赤く脹れる)がある患者は除きます。その他の疾病は針を刺す回数は多く、放血は少なめを心がけます。血液が泡状になったものが赤く、表面が凝結している場合は、すぐに瀉血を停止します。体質虚弱者、放出された血が水に似た膿である場合も速やかに瀉血を停止します。そのまま瀉血を続けると、体質の更なる衰弱を招き、疾病にかかりやすくなるため、水腫を誘発する恐れがあります。



6.不良反応と処置
針を刺しても血液が出ない、病血が出ない、出血が止まらない、傷口の炎症、卒倒、ルン型疾病の誘発等これら6つの症状がある場合、血液が出ないその原因は、体が冷えているためです。器具(針)に鋭さが足りない、暴飲暴食、過度の緊張、瀉血中の突然の来客、切り口が小さすぎる、皮膚及び血管の傷の位置の誤り、血紮後すぐに瀉血を行った、或いは瀉血後、縛った部分を緩めるのが早すぎた等、これらはいずれも出血しない原因と考えられます。これらの点に注意をすれば、必ず瀉血されます。病血が出ない、大きな血管からも病血が出ない場合、血管を換えて瀉血を行えば、出ることができます。患者が発熱しており、出血しない場合は、薬を服用して体内の血液を皮膚付近まで浮上させます。出血が止まらない場合は、瀉血部分に冷水を用いて止血する、或いは水に浸したフェルトで傷口を包むように縛ります。傷口が腫れる場合は、食塩、バター、犬の毛(燻したもの)を当て、それでも治癒しない場合は、更に薬を間挟んで当てます。眩暈がある場合は、薬剤の煙を浴び、冷水を吹き付けて治療します。重傷者の場合は、新鮮な血液を内服し血液を補います。瀉血がルン型疾病を誘発している場合は、マッサージ、黒砂糖を食べる、黒砂糖酒や骨のスープを飲む等してルンを抑制します。感染症或いはそれが重度の場合には、適切な処置を行います。



7.善後処理
瀉血後は、指で傷口を揉み、冷えた石を敷き、傷口を適当に包みます。病血を放出した後は飲酒を控えます。放血量が少ないと、病原を完全に排除することができず、かえって疾病を潜伏させ、肝臓腫瘍、潰瘍、ハンセン病、瘰癧、内臓膿瘍、胸部及び四肢の黄水病等を引き起こす可能性があります。放血量が多すぎると、精気を損耗してしまい、ルン型疾病、胃熱の衰弱を招き、寒性の腫瘍、浮腫、水腫等の疾病を起こしやすくなります。



1.適応症
瀉血療法を行うことができる疾病としては、拡散症、紊乱症、疫病、炎症、外傷、痛風、内臓膿瘍、湿疹、黄水病、ハンセン症等があります。



2.禁忌症
虚弱体質者は瀉血療法を行うことはできません。また脈道付近に脈結(脈道の結合点)及び命脈(動脈)がある場合も瀉血療法を用いることはできません。



3.注意事項
疾病の時期は、初期、中期、後期の三段階に分けることができます。
体腔出血が五腑に及んでいる、出血過多、或いは出血が止まらない等の症状がある場合、疾病の初期段階はすぐに瀉血療法を行うことができます。
疾病中期で痛み、悪寒はないものの体が重く痺れる等の症状がある場合、瀉血療法を用いることができます。また、先ず薬湯、薬剤を服用し、体内の血液を健康な血と病血に分けた上で、瀉血療法を行っても構いません。チーパと病血が脈穴に侵入し、飲食が原因で体内に熱が残っているような場合、疾病の後期に針を用いて瀉血療法を行って構いません。針を用いる瀉血療法は、療法を行う時期が肝心であり、早すぎるとルン型疾病、熱性疾病の拡散を誘発する恐れがあり、遅すぎると疾病を血脈に転移させ、病原排除を困難にしてしまう恐れがあります。熱勢が大きくなり過ぎると、五腑及び脈道は腐乱し化膿します。瀉血療法を行うべきではない疾病に対してこの療法を用いると、筋肉を傷つけ、脈絡を害し、身体の急所を危険にさらす恐れがあります。また動脈を切断すると、病人が死亡する可能性すらあるので、必ず注意する必要があります。



4.原理探求
針を刺し、血液を放出することにより、脈病の駆逐、病血の排除、鎮痛、消腫、腐乱予防、新陳代謝の活性化、傷の癒合、まばら疾病の排除、痩身者の体重増加等に効果があります。




 

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